東京地方裁判所 平成6年(ワ)22825号 判決 1995年12月25日
原告
村瀬峰男
被告
越野清美
主文
一 原告の、被告に対する別紙記載の交通事故による損害賠償債務は、六一万八一九〇円及びこれに対する平成六年七月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を超えては存在しないことを確認する。
二 訴訟費用は、これを四分し、その三を被告の、その余を原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
原告の、被告に対する別紙記載の交通事故による損害賠償債務は存在しないことを確認する。
第二事案の概要
一 争いのない事実等
1 事故の発生
別紙記載の交通事故が発生した(以下「本件事故」という。)
2 本件事故の責任
本件事故は、原告が本件道路に進入するに当たつて、右方の安全確認を怠つたことに起因するものである(なお、本件事故の発生につき、被告にも過失責任があるか否かについては、後記のとおり争いがある。)。
3 原告の被告に対する損害金の支払
原告は、被告に対し、修理費名目として二五万二六二八円を支払つた。
二 争点
1 本件事故に対する被告の過失責任の有無及び原被告の過失割合
(一) 原告の主張
被告は、本件事故直前、本件道路の第二車線上を走行し、前方を走行していたトレーラー(以下「本件トレーラー」という。)を追い越すために第一車線に進路変更をしたものであるが、本件事故現場の赤羽方面寄りには交差点があり、前記追越しが交差点直前での追越しであること、被告は、第一車線上を制限速度四〇キロメートルを超える時速五〇キロメートルで走行していたことから、被告には本件事故発生について過失がある。
(二) 被告の主張
否認する。
被告は、第一車線上を本件トレーラーと並走していたに過ぎず、その時の被告車の速度は時速四〇ないし五〇キロメートルである。
2 被告の損害
(一) 被告の主張
被告に発生した損害は、被告車の修理費用及び修理に伴う代車料であるところ、修理費用は四六万九二七八円、代車料は一日八万円で四〇日分の計三二〇万円である。なお、代車料が右金額となつたのは、代車を一日単位では調達することができず、長期間を単位として借りざるを得なかつたからであり、この点については、原告と自動車保険契約を締結していた日新火災海上保険株式会社の担当者である遠藤依久(以下「遠藤」という。)の承諾を得ていた。
(二) 原告の主張
修理費用については、前記争いのない既払金で足り、代車料については相当性を欠くので理由がない。遠藤はそのような承諾をしたことはない。
第三判断
一 本件事故発生に対する被告の過失の有無、程度について
1 本件事故の態様
甲四、乙二六、原被告本人尋問及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(一) 本件事故現場は、幅員約一三メートル、片側二車線(第一車線の幅員は約三・五メートル、第二車線の幅員は約三・〇メートル)の本件道路の赤羽方面に向かう車線内にあり、本件道路と京浜東北線方面と国道一二二号方面とを結ぶ道路との交差点(以下「本件交差点」という。)からやや大宮寄りに位置する地点である。本件事故現場付近の本件車線の路外にはドライブスルー・飲食店であるマクドナルド(以下「飲食店」という。)に出入りする進入路が設けられている。
(二) 被告は、本件事故当時、JR大宮駅から川口にある取引先の会社に向かう途中で、本件道路を上尾方面から赤羽方面に向けて走行中であつた。本件事故現場から約二〇〇メートル大宮方面寄りの地点では、本件トレーラーの後方の第二車線上を走行していたが、その後第一車線に進路変更し、本件トレーラーに追いついてこれと並走する状態となつた。
被告は、飲食店の出入口付近から約三〇メートル手前の地点で、原告車が路外から本件道路の第一車線内に進入してきたのを発見してクラクシヨンを鳴らしたが、原告車は本件交差点の対面信号が青色であるにもかかわらず同交差点手前で緩慢に進行していた。被告は、被告車が積載していた積荷が崩れる心配があつたため急制動措置をとらず、本件トレーラーを先にやつた上で第二車線側にハンドルを切つて衝突を回避しようとしたものの、被告車の左前部が原告車の右後部と衝突するに至つた。
なお、飲食点の出入口付近は、被告車進行方向からは歩道に植樹された樹木の陰になるため、遠くからの見通しは必ずしも良くなかつたと推認できる。
(三) 原告は、本件事故直前、飲食店で昼食を購入して本件道路に出て、本件交差点を右折しようと考えていた。本件道路に進入する直前に右方を見たが、第一、第二車線を上尾方面から走行してくる車両が三〇メートル以上離れていると判断したため、原告は、時速約一〇キロメートルの緩やかな速度で本件道路の第二車線に入ろうとしたものの、別のトラツクが前方に停止していた(本件事故時には、本件交差点の対面信号が青であつたことから、すぐに本件事故現場から走り去つたものと推認できる。)ので困難と判断し、ゆつくりと回り込むように第一車線上に入つた。その直後に、後方からクラクシヨンが鳴るのを聞き、早く走行するよう催促する合図と感じたものの、加速することなく、その結果後方から被告車が衝突するに至つた。
以上の事実を総合すると、原告は、原告車を本件道路に進入するに当たつて右方を確認していたものの、後続車の速度や同車両との車間距離、原告車が進入しようとする車線内に入り込む余地の有無について的確に認知することなく、漫然とゆるやかな速度で進入するに至つており、右方確認に引き続く安全運転義務違反の過失があることが認められ、その過失が本件事故の主たる原因というべきであるが、他方、被告にも、被告車の積荷の荷崩れを警戒して可能な限り急制動措置を避けようとした点はやむを得ないとしても、そのような一般の車両とは異なる特別な配慮を必要とする状況下で被告車を運転するのであれば、路外と本件道路との車両の出入りが容易に推測し得る飲食店のある本件交差点付近を通過しようとするに当たつては、単純に制限速度である四〇キロメートルを遵守すれば足りるのではなく、同速度を十分に下回る速度で走行して前方の安全を確認しながら走行するように努めるべきであるところ、被告は、右制限速度を遵守することなく、被告車を走行していたのであるから、この点について、被告にも過失を認めざるを得ない。そして、原告と被告の本件事故の発生に対する過失の割合としては、原告八、被告二の割合とするのが相当である。
二 損害額の算定
1 修理費用 二七万八五二三円
被告は、被告車の修理費用を立証するため乙二五を提出するが、同書証の作成年月日が平成七年七月一八日付けであることからすると、本件事故後間もなく作成された乙五(見積書)の修理明細と相当部分において重複していることを斟酌してもなお、乙二五に明細に記載された修理内容の全てが本件事故と相当因果関係のあるとは直ちに認めることができず、また、被告が部品を購入したことに対する請求書(乙一ないし四)についても、その購入品目に係る部品と本件事故との個別的な対応や購入の必要性等について具体的に明らかでないことからすると、本件事故によつて必要な修理費用として認定することができるのは、乙二五の記載に係る修理費用のうち、乙五に記載されていない修理費用を除外した残額である二七万八五二三円に止まらざるを得ない。
なお、原告は、甲二を提出して修理費用が二五万二六二八円である旨主張し、証人中村征志(以下「中村」という。)も本件事故ではフロントガラスが割れることはない旨証言するが、これを裏付ける客観的な証拠がなく、右主張は採用できない。
2 代車料 八一万円
(一) 証人遠藤及び同中村の証言によれば、原告と遠藤との間に修理費用に関する特約があつたと認めるに足りる証拠はない。
(二) 被告は、本件事故による代車料として、一日八万円の四〇日分の計三二〇万円を請求し、これに沿う証拠として乙六の1、2を提出するが、被告車の代車料として、一日当たり八万円が相当であると認めるに足りる証拠はなく、かえつて、証人遠藤及び同中村の証言によれば、いわゆるウイング車のロングの型式で積載量三・五トン(乙一二)である被告車とは必ずしも同型ではないものの、ウイング車の積載量三トン車の場合で一日二万五〇〇〇円であることからすると、前記金額は極めて高額であり、必ずしも相当な代車料算定に当たつて採用すべき基礎日額と認めることができず、被告車の適切な代車を調達するための基礎日額としては、被告車の型式を勘案しても一日三万円をもつて相当な金額と認める。
(三) また、代車を必要とする期間についても、四〇日間をもつて相当な代車調達期間と認めるに足りる証拠はなく、被告本人尋問の結果によれば、本件事故による修理期間としては第一回の修理に一〇日間、第二回の修理に一三日間を要したこと、仕事を行うためには前日の準備、翌日の後始末のために車を必要とすることが認められ、以上によれば、代車の相当な調達期間としては、修理に必要な期間である二三日とその各前後日である四日の計二七日と認めるのが相当である。
(四) そうすると、本件における代車料として相当な金額は、八一万円と認められる。
3 小計
以上を合計すると、一〇八万八五二三円となる。
4 結論
前記金額に過失相殺すると、八七万〇八一八円となるところ、既払金二五万二六二八円を控除すると、六一万八一九〇円となるから、原告は、被告に対し、本件交通事故による損害賠償債務として、六一万八一九〇円及びこれに対する平成六年七月二〇日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の限度で債務を負うことになる。
(裁判官 渡邉和義)
(別紙)
(一) 日時 平成六年七月二〇日午後〇時四五分ころ
(二) 場所 埼玉県川口市芝下一―七―二八先路上
(三) 原告車 原告の運転する軽四輪自動車
(四) 被告車 被告の運転する事業用普通貨物自動車
(五) 事故態様 原告車が、上尾方面と赤羽方面とを結ぶ前記道路(以下「本件道路」という。)に、路外から赤羽方面に左折しながら進入した直後、原告車を発見した被告がこれを回避しようとしたもののこれを遂げず、原告車の右後方角と被告車の左前部とが衝突するに至つた。